Message from the Director, Executive Officer, Executive Vice President & CTO
2026年9月

激しく変化する事業環境の中、
自社の競争優位性を支える技術基盤を進化させ、
データと科学の力で新たな価値創造を実現していきます。
「統合ソリューションデザイナーへの進化」に向け、「おいしさデザイン®」を強化する組織体制と技術戦略
これまで当社グループの研究開発は、基盤研究やイノベーション開発機能を研究開発センターに集約する一方、商品開発は事業部にひもづく体制としていました。この体制は市場や事業ニーズを迅速に取り込めるという利点がある一方で、開発が短期志向に偏りやすく、事業部ごとの縦割りが強まり、技術の横断的な活用やシナジー創出が進みにくいという課題がありました。こうした課題を踏まえ、2025年4月に組織を再編し、研究開発機能を研究開発センターに集約しました。これにより領域横断の技術連携を強化し、基盤研究・イノベーション開発と商品開発の双方でシナジーを創出する体制へと転換しています。
さらに、3カ所に点在していた研究開発拠点についても、2027年1月に神奈川県川崎市に集約することを決定しており、物理的な一体化による連携促進も図っていきます。 新体制の下、シナジー創出や重複・隣接領域における技術テーマについて議論を重ね、将来の商品やサービスにつながる研究開発テーマの発掘を進めてきました。長持ち油をはじめとする業務用油脂、健康を意識した家庭用製品、機能性スターチ、業務用油脂加工品といった分野を横断しながら開発テーマを具体化し、2026年度より複数領域にまたがる開発に着手できたことは、大きな前進と捉えています。
テーマごとに研究開発費と利益貢献額の可視化を進めたことで、インプットとアウトプットの関係がより明確になりました。多くのテーマで一定の成果が見られる一方、テーマ間の差も顕在化しています。成果が十分に見込めていない領域では、初期の販売量やコスト見通しの精度に課題があり、この点は着実に改善していきたいと考えています。特に初期段階のアウトプット設計には、市場認識の精度に改善余地があるため、技術者の事業理解とAIなどの活用を進め、テーマ設定精度の向上を図ります。イノベーション領域については、短期的に成果が出にくい特性を前提としつつ、商品開発とは異なる軸で、成果の質や将来価値を重視して評価しています。
また、第六期中期経営計画における成長戦略の一環として、「おいしさデザイン®」を軸に技術基盤を強化したことにより、競争優位の源泉となる知的財産の獲得と質的向上が進みました。知的財産の状況を的確に把握することは、当社グループおよび競合他社の強み・弱みの理解につながり、強みを発揮できるカテゴリや今後強化すべき領域を明確化できます。それらを事業の方向性と掛け合わせることで、経営戦略と連動した知財戦略の構築を進めていきます。今後も、新規・注力カテゴリへの投資やテーマ設定精度の向上を通じて、知的資本の質的向上を一層推進します。
将来的な「統合ソリューションデザイナーへの進化」を実現するため、「おいしさデザイン®」の強化を二つの方向で進めています。一つは、顧客ニーズへのソリューション提案を科学的に体系化する取り組みです。顕在化した課題の解決にとどまらず、次の価値創出につなげていきます。もう一つは「おいしさ」を構成する因子を分解、数値化し、本質を定義する取り組みです。数値に基づき提案することで、潜在的なニーズの発掘につなげていきます。本分野は社内開発に加え、大学などアカデミアとの連携も強化しており、成果の創出を期待しています。油脂やスターチにとどまらず、他素材・他分野への展開も視野に入れ、「おいしさ」という人間にとって本質的な価値の提供を通じて、事業領域のさらなる拡大可能性を追求していきます。
これらを支える研究開発人財の強化も不可欠です。各個人のコンピテンシーレベルの把握、およびそれに基づいた教育の実施、キャリア・デベロップメント・プログラムに基づく人財ローテーションにより、研究基盤から商品開発へつながる育成を進め、領域横断での配置と交流を通じて知見の融合を図っています。また、知財人財についても開発初期から参画してもらうことにより、開発と知財を一体で設計できる人財の育成と知的資本の蓄積につなげていきます。
安定供給を実現する生産体制
生産拠点は多くの固定資産を伴うため、ROEの観点から効率的運用を意識し、無駄な投資は抑制しています。ただし、効率化を過度に進めると不測の事態で生産停止リスクが高まり、収益に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、安定供給と資産効率の両立を前提に、投資判断を行っています。老朽化状況を再評価し、設備投資の優先順位を見直すとともに、2026年度から維持投資額を一定程度増額します。必要な設備への重点投資により、リスクの低減とコスト最小化を図り、安定供給体制を強化します。当社グループにとって生産拠点は事業基盤そのものであり、マテリアリティの一つ「食の安定供給による持続可能な社会の実現」を支える重要な要素です。地政学リスクが高まる中、複数拠点の保有による相互補完は、安定供給に寄与しています。
守り・攻め両面でのサステナビリティの取り組み
当社グループは、環境負荷低減の取り組みや人権尊重を前提に、サプライチェーン全体の持続可能な調達の実現に取り組んでいます。取締役副社長執行役員CTOである私を委員長とするサステナビリティ委員会を中心に、代表取締役社長執行役員CEOを委員長とする経営リスク委員会と連携し、全社的な管理体制の下でリスクを適切に把握、管理しています。特に、トレーサビリティの向上とサプライヤーとの対話を進め、パーム農園までのトレーサビリティ率は83.0%、サステナブル調達方針・調達基準への同意書の締結率も95.8%に進展しました。
一方で、サステナブルな事業活動は成長機会にもつながるという考えのもと、機会視点での議論を2026年度より本格化します。われわれが開発している未利用バイオマスを用いたSAF(持続可能な航空燃料)は新規事業になりうると同時に、SAF製造に使用される大豆や菜種などの食資源を未利用原料に代替することで、食用油の安定供給にも貢献できると考えています。また、当社グループの目指すべき未来(ビジョン)である「Joy for Life® -食で未来によろこびを®- おいしさ×健康×低負荷で人々と社会と環境へのよろこびを創出」に掲げる「低負荷」をコンセプトとする製品は、これまでも環境負荷の低減や作業負荷の低減に貢献してきました。特に人手不足による作業負荷の増加は大きな社会課題の一つと捉えており、これに応える「SUSTEC®」をはじめとする技術を活用した製品やサービスの開発、拡販をさらに推進していきます。
dXで実現する企業価値向上
2024年度に私がdX推進リーダーとして着任し、当社グループではdXをStageⅠからⅣに整理し、段階的に取り組みを進めています。
2025年度は主にdX StageⅠの業務変革とⅡの連携変革において、成果を上げることができました。業務改革では、全社全部門での取り組みにより、年間約2.5万時間の労働時間削減を達成しました(全社総労働時間比約1%)。SCM・物流改革では、システムや配送の仕組み、在庫管理の見直しを図ることで、在庫適正化と生産効率の向上を実現しました。営業・マーケティング領域では、SFA(営業支援 システム)や情報検索システムの導入により、営業活動の効率化と情報活用の高度化を進めました。人財育成では経営層を含めたIT教育を実施し、dXとITリテラシーの底上げを図りました。DX認定を取得したことも、当社グループの取り組みを対外的に示す一つの成果と位置付けています。2026年度はAIなどのデジタル技術と当社グループの資産を組み合わせ、dX StageⅢのビジネス変革・新ビジネス構築に取り組みます。
デジタルは手段であり、目的はビジネスの変革と社会への価値提供です。「dX」と「d」を小文字表記にしているのも、デジタルを目的化するのではなく、ビジネスの変革を通じて社会変革に貢献し、目指すべき未来(ビジョン)を実現するための手段であるという考え方によるものです。デジタルなどのツールと当社グループの技術を掛け合わせることで、新たな価値を創出し、ビジネス変革と社会変革を通じて企業価値の持続的向上と社会への価値提供を実現していきます。